楽譜作成ソフト「Finale」が開発販売終了

 2024年の8月下旬に大きなニュースが、楽譜を必要としている音楽家パソコンユーザーを襲った。楽譜作成ソフト「Finale」が開発を終了するというのだ。(写真はFinaleが日本語版になった頃のバージョン3.0でフロッピー供給だった)

 Finaleは1989年から発売されたアメリカ製の楽譜作成ソフトで、操作性は難しいながらも出来ない表現(楽譜の書き方)は無いとい誇れる高機能により楽譜出版業界では標準となったソフトだ。僕も1990年には確か20万円前後くらいで購入した思い出がある。

 当時は楽譜作成ソフトというと、他にもEngraverやEncore、Overture、スコアメーカーなどがあった。その中でもFinaleで作る楽譜のクオリティは軍を抜いていて、これならプロの浄書家でも使えると話題になったのだ。

 楽譜のクオリティと言ってもなかなか理解してもらえないかも知れない。主に楽譜フォントの美しさ、音符と音符の間隔、多数並んだ場合の臨時記号の表示場所、カスタマイズした記号類の自由配置、自由な小節レイアウトなど色々とあるのだ。

 1992年頃だったか、Finaleの操作方法を研究・共有する目的で「Finaleユーザーズクラブ」が作られ、20年近くその会長職を自分が務めていたりした。

 しかし1999年にイギリス製のSibeliusというソフトが発売されてからは、その操作性の快適さで、私は完全にFinaleからSibeliusに乗り換えてしまった。特に音符を入力した後のレイアウト調整ではSibeliusの方が圧倒的に簡単でスピードも速い。すでに完全にSibeliusに乗り換えた私にとっては、もはやFinaleは沈んでいく巨大クルーズ船のように見えていた。

 Sibeliusでどうしても作れない楽譜の書き方なら、画像としてファイルを書き出して、Adobe Illustratorなどで編集すれば、Finaleに対抗することはできる。ただし、それをやってしまうと、後から小節を増やしてくださいだの、編成を変えてくださいだの、レイアウトを変えてくださいだのという音楽家としての当たり前の要望には答えられくなる。だってもう切り絵のように完全に絵になっているわけだからね。もちろんプレイバックもできない。

 Finaleを使っているユーザーも最終的にどうしても無理なことは画像にして編集してしまうが、後々の変更要請や再利用のことを考えて、なるべくFinaleのソフトの中で楽譜を完成させようとするものだ。ただ、Finaleのことなら日本で一番詳しいであろうFinale使いの私の友人ですら、数年前からは「もうFinaleの将来は無い」と愚痴をこぼしていた。その予言が2024年に現実となった形だ。

 と、このように書くとSibeliusに移行したユーザーはぬくぬくと安泰だったように感じられるだろうが、実はそんな事はない。Sibeliusの開発者はとっくにこのソフトを手放しており、Steinberg社で販売されるDoricoを開発した。SibeliusはPro Toolsで有名なAVID社に買収され、今やサブスクによって安くはない使用料がかかるソフトになってしまっている。つまりSibeliusとて未来永劫使えるソフトかどうかは分からないわけだ。

 現在Finaleを開発販売しているMake Music社は、Finaleの代わりに上記のDoricoのProバージョンをクロスグレードとして優待販売するとアナウンスしている。
 今使っているパソコンが壊れないうちはFinaleを使うことができるのだが、他のアプリケーションとの整合性を保つためにOSをアップグレードすると、その影響でFinaleが動かなくなる可能性がある。果たしてFinaleユーザーはどうするだろうか。

 ちなみに無料で入手できるMuseScoreというソフトは楽譜浄書に使うには完全に力不足なので、SibeliusかDorico Proのどちらかを選択することになるはずなんだが・・・。

2024年8月29日

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