前リュック問題

 ここ数年、混んでいる電車の中では肩にかけるリュックの類は背負うのではなく、前に抱きかかえるのがマナーのようだ。確かにリュックを背負っていると、無意識に通路を塞いでいることがあるし、不用意に体を回転させて動かすと、周りの人にリュックをぶつけてしまう可能性がある。昔、少しだけボケてきた母親がこれをやって、周りの乗客に迷惑をかけることが時々あったらしい。「なんだか最近の通勤客っていうのは怒りっぽい人が増えたねえ」と言って不思議がっていたが、いえいえ、それはお母さん、あなたが背中のリュックを気づかないうちにぶん回してるんじゃなですかと疑った。

 そこでいつの頃からか、混んでる車内においては、リュックは子供を抱くように前側に抱きかかえる人が多くなった。なるほど、頭いいな。それなら自分のリュックが周りの乗客に迷惑をかけているかどうかは分かりやすいもんなと関心した。

 ところが、車内で流れるアナウンスを聞くと、リュックを胸の前に抱きかかえるようにしてくださいとはお願いしていない。「他のお客様に迷惑がかからないように手に持つか、網棚の上に乗せてください」と言っている。

 実はリュックを前に抱きかかえたら、それですべての問題が解決とはならないようだ。前に抱えたリュックに腕を乗せてスマホをいじってれば、やっぱり邪魔。混み合って押されたら、眼の前に座っている乗客の顔にリュックをぶつけてしまう。妊婦や心臓の病気を患っている人は、そもそも前には抱えられないなどなど。
 また、リュックを背負う利点というのもあるらしい。男性にはわからないが、女性の場合には背後の痴漢から身を守る効果があるんだとか。

 他にも、「アナウンス通りにリュックを手に持ったら手が疲れるだろうが。なんのためのリュックだよ」という意見や、手に持てばそれはそれで、他の人の膝裏あたりにぶつけてしまうことを心配する人もいる。網棚の上に置くようにと言われてもスペースは限られているし、立ち位置によっては網棚まで届くのかという問題もある。それに上げ下げの時に不注意に誰かの頭にぶつけてしまうかもと心配である。まあ大変だよね。気遣いというのは。

 いや、僕が言いたいのは、長々書いてきたこのような車内の問題ではないのだ。最近、町を歩いていると、通勤電車の中と同じように、リュックを前に抱えて歩く人を結構な頻度で見かけるようになったことだ。あれはいったいなんだ? 電車に乗る時だけ後ろから前にかけ換えるのは面倒だから、いっそのこと、つねに前に抱きかかえることにしたってか? ついに最近は前リュックを考慮したデザインの製品も作られるようになったとか。

 僕にはあの姿がとても滑稽に見える。そもそも、なんで重たい荷物を背中に背負うのかを考えればわかるだろう。重たい荷物を前に抱えてたら、足元が見づらいし道でけつまづいた時に転倒する確率が上がらないか?そして、男性だったらせっかくのスタイリッシュなネクタイを隠してしまうし、女性だったら胸元のヒラヒラやおしゃれなネックレスを隠してしまわないか? 洋服のデザイナーってリュックを前に抱えてかけることを前提としてなんかデザインしてないと思うんだよね。デザイナーさん、泣いてない? 

あ、一つだけ前リュックの良いところがあった。激しい雨が降っている時にリュックがあまり濡れないかもね。

2024年9月7日

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