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No.5「禁じられた遊び」弾けますか?

 「禁じられた遊びが弾けますか?」とギタリストに聞けば,大抵の人は「あ,そのくらいなら弾けるよ」と返すのではないだろうか。人によっては「メジャーになってからはダメだけど」と付け加える人もいるかも知れない。でもこの曲には実に興味深い話があるのだ。メジャーに転調してからのエンディングの部分が2通り存在するのである。次の譜例が私がギターを始めた頃に練習したパターン。

 

 そして次の譜例が最近の教本や曲集に収録されているパターン。

 

 現在ではほとんど後者の譜例で演奏されることが多い。この2つのパターンのどちらのほうが音楽的に優れているのかを,作曲家の友人に聞いたことがある。その人の分析は「前者のほうが良い」だった。理由は,この曲全体のベース進行が2小節単位で行われているので,当然ながら終結部分もしっかり2小節のパターンのほうが良いから。そして起承転結の「結」としては,ドミナントが1小節というのは物足りないから...ということだった。
 

 
 
 そもそも,なぜいつの間にか後者のパターンが市民権を得てしまったのか。確かに前者のパターンだとメロディのG#とB7のAの音が衝突する。おそらくこれを嫌ってもっと綺麗に響くようにということだったのだろう。でもその前のコードはAであり,そのままEに進んでしまうと一旦アーメン終止になってしまう。もちろんそういうコード進行もあるが,その時はベースはEじゃなくBにして第二転回系を使うパターンが多いはず。こうすれば大きく見ればドミナントが2小節になるので緊張感はゆるまないというワケ。以下の譜例を参照のこと。

 

 ちょうどソル作曲の名曲「魔笛の主題による変奏曲」と同じ展開になる。ただ、このパターンはギターでは非常に押さえづらいのが残念。「魔笛」が弾ける人なら大丈夫だと思うのだが。
 

 
 
 それにしても「禁じられた遊びが弾けます」とは言っても様々なレベルがある。例えばあるギタリストは次の譜例の部分は後者の譜例のように弾くべきだと主張したそうだ。

 
 
 

 そんなことは,たとえ“お日様が西から昇っても”あり得ないのだが,そんな演奏家が存在してしまうのがギター界なのだろうか。

(2003年4月5日)