このサイトでは右上にある3種類の「A」のボタンをクリックすることによって、表示される文字サイズを切り替えることができます。

No.3 デジャブか?稲妻コードの不思議

 ギターは実に不思議で分かりづらい楽器だ。それはGuitar Essay No.1でも書いたように,その構造による所が大きい。例えば,コードとしては結構上級の部類に入る。Bm7b5(ビー・マイナーセブン・フラットファイブ)というコードがある。ギターで弾いてみると,下図のように押さえる。ルートが5弦の2フレットだ。

 

 私はコードの押さえはいつも何かの形に喩えて憶えるようにしている。ちょうどプラネタリュームで見る星座ような感じだ。さしずめこのコードフォームは稲妻コードと読んでいる。

 

 この稲妻コードは左下がりなのだが,右下がりに,つまり鏡に映したように左右反転させるとフラットナインスというコードになる。

 

 この稲妻コードなんだが,実はいろいろな顔を持っているカメレオンのようなやつなのだ。例えばこの押さえを弦1本ずらして1弦〜4弦で取ると,ディミニッシュコード(この場合はEdim7)になる。ここでは4弦の2フレットがルート。

 

 Bm7b5は別名「ハーフディミニッシュ」と呼ばれているくらい,ディミニッシュコードの響きによく似ている。それもそのはず。たった1つの音が半音違うだけなのだ。つまりディミニッシュコードが一つの完成系であるとすれば,ハーディミニッシュは出来損ないか? まあそういうわけでもなく,曲中で使うシーンが異なるということだ。ディミニッシュコードはすべて短3度の積み重ねで出来ている。音は1オクターブの間に12個あるので,よく時計に喩えられるのだが,ディミニッシュコードを文字盤で押さえてみると,下図のようにちょうど十文字に切る形になる。これがディミニッシュコードの作り方。もしもハーフディミイッシュにするなら「6=13」を半音上げて「m7」にする

 

 だからディミニッシュは回転させていくと4つ目には順番が違うだけでまったく同じ構成音になってしまうので,順列を関係なく見れば3種類しかないのだ。ハーフディミニッシュはこのうち1つが半音高くなってしまう形である。確かに幾何学的にはディミニッシュのほうが美しいのかもね(^^;。
 
 それにしても,まったく同じ押さえなのに弦が1本ずれたら別のコードになってしまう。だから初心者にとってはギターのコードフォームが憶えづらいと感じるのだろう。「あれ? これはさっきBm7b5というコードネームで憶えたはずなのに,弦が1本違ったらEdim7だって?」どうなってんの」となる。まるでデジャブのようだ。しかしデジャブはこれ1回ではない。自分はBm7b5のつもりで押さえたコードもベースがGの音を弾いていたら,その響きは変わって,コードネームもG9のルート省略型となるのである。

 

 それだけではない。まだある。もしもベースがC#を弾いていたなら,その響きはもっと複雑になり,C#7b9b13のルート省略型となる。ひねくれた人はこのようにも取るかも

 

では,登場した3つのコードーネームを使ってそれぞれコード進行を実際に作ってみよう。最初のコードをBm7b5と認識した場合のコードワークでもっとも一般的なものは以下のパターンだ。

 

 
 最初のコードをG9と認識した場合のコードワークは次のようになる。

 

 
 最初のコードをC#7b9b13と認識した場合のコードワークは以下のようになる。もっともこの場合はFのナチュラルではなくEのシャープと書かねばならないが

 

 どうだろうか。たった1つの稲妻コードなのに視点を変えるだけでこれだけの可能性が見えてくる。この発想の転換がどれだけ早く行えるかは,ギターの指盤をどのように眺めるかが勝負となる。どう眺めるのかって? 下の図のように流れるのさ。

 

(2002年6月17日)