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No.16 スケールやモードが分からない!

 
 ギター愛好者が音楽理論を勉強していると、最後にぶち当たるのがスケールやモードじゃないだろうか。なぜか教会旋法(チャーチモード)なんていう言葉が出てきて、信心深くない人は?面食らってしまう。そして最後まで頑張って読んでも結局のところ作曲や演奏にどう活用すればいいのやら分からない。僕もそんな一人だった。それでも別に自分の音楽制作に支障を来す事はないので放っておいたのだ。
 しかしこれから作り始める「話せば音楽理論」を作るににあたっても、やはり誰もが納得するかみ砕いた、“これ以上分かりやすい説明はない”というくらいのエッセイは書いてもいいんじゃないかと思ったのだ。以下の内容は間違っている箇所があるかも知れない(僕はジャズは詳しくないからね)。自分なりに整理して新しいことに気づいたら訂正していくつもりだ。

 
 話はハ長調やイ短調などという言葉が無い時代までさかのぼる。昔々そのまた昔、ドレミファソラシドの7つの音があった。当時は長音階ではなくイオニア(もしくはアイオニア)旋法とよばれていた。

そして、それとレから始まるドリア旋法というのも同格にあった。

同じようにミから始まるフリジア(もしくはフリギア)旋法というのもあった。

以下、羅列していくと、ファから始まるリディア旋法。

ソから始まるミクソリディア旋法。

ラから始まるエオリア旋法。

シから始まるロクリア旋法と、合計7種類の音階が存在していたのだ。

 この時代はハーモニーという考え方はあまり無かったらしい。一人がメロディを歌い、二人目がそれに併せて同じ、もしくは違うメロディを歌ったりして音楽を作っていたと思われる。
 その後、主音に進む直前には半音下の音を弾くと気持ちが良いと誰もが納得するようになる。縦のハーモニーを考えていくと、G7のソ、シ、レ、ファを作る関係で、イオニア旋法がもっとも気持ちのよい音楽を作り出す音階であるという名誉を勝ち得たのではないだろうか。
 ちなみに、この旋法というのは「レから始める」とか、「ミから始める」というように覚えると、絶対に分からなくなってしまうと思う。それよりも主音をすべて同じにして、全音と半音の並びがどう変わるのか、という考え方をたたき込んだほうがいい。もしくはメジャー系の仲間とマイナー系の仲間に分類して、それぞれ長音階から、または短音階からどの音が変化したのかを覚えるといい。
 イオニア以外の6つの旋法をすべてドから始めて全音、半音の並びを再現すると次のようになる。






 次に7つの旋法で4和音を作ってみると、次のようになり、G7を作ることができるのはイオニア旋法のみだということが分かるだろう。
 15世紀ぐらいから和音の繋がりを重視して作る音楽ではG7のファとシの間にできるトライトーン(全音3つ分の音程)がミとドにそれぞれ半音づつ動いて解決するドミナントモーションという動きが音楽の基本構造となる。そしてそこでイオニア旋法は長音階としてスタンダードの地位につく。またエオリア旋法は短音階として二番手の地位になるが、どうしても人間は主音に行く前にドミナント7コードを欲求してしまうことから、自然短音階の7度を導音に変化させた和声的短音階や、その和声的短音階において6度と導音の不自然な隔たりを補うために6度までも半音上げた旋律的短音階が使われていく。これはいかにエオリア旋法がイオニア旋法へと引きずられていくか、言い換えればどれだけ多くの人がドミナントモーションを欲するかを表しているだろう。
 16世紀から17世紀ごろまでは、7つの旋法から淘汰されて残った長音階と短音階の2つの音階でほぼ音楽が成り立っていたが、それが飽きられてくると再び昔の旋法が使われるようになってきたようだ(注:短音階は3つあるので合計4つとも言える)。人間、いつだってマンネリはいやだ、刺激が欲しいということだろうか。

 
 一方、ジャズの世界を見てみると様々なスケールを駆使して即興が行われている。古代ギリシャで旋法の名前として使われていた名前はそのまま音階の名前として復活し、イオニア・スケール、ドリア・ケール、リディア・スケール、フリジア・スケール、ミクソリディア・スケール、エオリア・スケール、ロクリア・スケールとなった。
 もう一度強調しておくが、多くの理論書では、これらのスケールの説明を鍵盤の白鍵をいろいろな場所から弾き始めるという行為によってそのスケールの雰囲気を説明しているが、これが混乱の元だ
 その例を挙げてみる。学習者は、たとえばCメジャーのキーで伴奏がCならば、Cイオニアスケールでアドリブを取る、そして伴奏がFに移行したら、Fのリディアスケールでアドリブを取る。伴奏がG7に移行したらGのミクソリディアスケールでアドリブを取ると考えてしまう。しかし、これは至極当たり前の話であり、単純にドレミファソラシドの長音階を使ってアドリブをすればいいということになる。それでもギタリストにとって多少有意義なのは、ギターは同じ音が複数箇所で出るため、同じドレミファソラシドでもポジションによって運指が異なる。そのため、それらをせいぜい5つのブロックに分けて、イオニアスケール、ドリアスケール、フリジアスケール、ミクソリディアスケール、エオリアスケールとして固まりごとに2オクターブで練習したりするのだ。図を見ると、ちょうどオセロゲームのように見えるだろう。ただし音楽的には、すべて単なるドレミファソラシドで“スタート音”が違うだけであり、その時の伴奏コードが何であるかを把握して、演奏するフレーズの中心にどの音を持ってくるかを考える。もっとも簡単なのはそのコードのルートか5度にすればいい。それと、なるべく強調して弾かないほうがいいのは何の音か(アボイドノート)に注意を払えばいいだろう。
 他にも応用として、オルタード・テンション(臨時記号が付いたテンション)を加えた様々なスケールがある。リディアン・ドミナント、ハーモニック・マイナーP5thビロー、ミクソリディア♭6th、オルタード・ドミナント、コンビネーション・オブ・ディミニッシュ(略してコンディミ)、ディミニッシュあたりだ。(楽譜)
 特にコンディミはギターだと指板の上で簡単に把握して覚えることができるために、利用価値は高い。

 
 ここで、アボイドノートについてきちんと整理しておこう。アボイドノートは回避音、避けるべき音ということになっている。和音とは音階の中から3度ずつ積み上げて作っていくものだ。どうして2度で積み上げないかというと、単純な話、2度だと濁って汚いからである(笑)。ではイオニアスケールの音を3度ずつ積み上げてみよう。ド、ミ、ソまでは基本3和音で、シの音はメジャー7th、そしてレの音は9th、ファの音は11th、ラの音は13thということになる。ラの3度上の音はルートから2オクターブ上のドであるから、これで音階を構成する7つの音が全て出そろったことになる。この中でミとファの音程は♭9th(短9度)である。これは誰が聞いても協和していない音で、せっかくのドミソのハーモニーをぶち壊してしまうと考えられた。♭9thはドミナント7thコードの時のみ使用することができる。そのため可哀想なことにファは不名誉なアボイドノートになったのだ。メロディとして使う場合、またはアドリブフレーズを取る場合は、ファは絶対に演奏してはいけない音というわけではないが、使うなら短めの音ですぐに上か下の隣の音へ移動して協和させるべき音なのだ。
 次にドリアスケールで見てみよう。先ほどと同じように3度ずつ積み上げると、レ、ファ、ラの3和音の上にドが乗って、これでDm7ができあがる。そしてその上にミが9thとして加わり、ソが11thとして、シが13thとして加わる。ハーモニーとしては13thのシの音はアボイドノートとされている。それはCメジャーの場合、Dm7の次はG7に進むことが多く、Dm7の時にすでにシの音を先取りして弾いてしまうと、Dm7の3度のファとの間にG7の肝心要のトライトーンがすでに響いてしまうからだ。しかし現場での作曲家やプレイヤーに聞いてみると、ドリアスケールの6度は平気で多用するのだという。音程関係を見てみると、シという音は構成音のラから見れば9thであり、♭9thではない。そしてドから見れば半音関係ではあるが、M7thの関係であり、♭9thの関係ではない。だから他のアボイドノートとは性格が異なるというのである。確かにツーファイブ進行で次にD7に行かないのであれば、たとえば曲の最後に演奏されるマイナーシックスのコードであればアボイドにはならない。前後の脈略によって判断すべきだろう。
ちなみにドから始めた場合は次のようになる。
今度はフリジアスケールで見てみよう。ミから3度ずつ積み上げると、ミ、ソ、シの3和音の上にレが乗って、これでEm7ができあがる。そしてその上にファが♭9thとして加わり、ラが11thとして、ドが♭13thとして加わる。当然ファの音はアボイドノートになるが、♭13thのドの音も構成音のシとの音程は♭9thということになり、れっきとしたアボイドノートである。
ちなみにドから始めた場合は次のようになる。
次にリディアスケールで見てみよう。ファ、ラ、ドの上にミが乗ってFのM7thとなる。その上にソが9thとして、シが♯11thとして乗っかる。この7つの和音の中で♭9thの音程になる2音の組み合わせはない。つまりリディアスケールにはアボイドノートは無いということになる。
ちなみにドから始めた場合は次のようになる。
今度はミクソリディアスケールで考える。ソ、シ、レの3和音の上にファが乗りG7というドミナント7thコードができあがる。その上にラが9thとして乗っかり、ドが11thとして、ミが13thとして乗っかる。ここでドの音は構成音のシとの間でb9thの音程となるのでアボイドノートとなる(ただ、コードがドミナント7th sus4になるとドが構成音になり、シはアボイドノートとなる)。
ちなみにドから始めた場合は次のようになる。
次にエオリアスケールで考える。ラ、ド、ミの3和音の上にソが乗りAm7ができあがる。その上にシが9thとして乗っかり、レが11thとして、ファが♭13thとして乗っかる。ここでファの音は構成音のミとの間で♭9thの音程となるのでアボイドノートとなる。
ちなみにドから始めた場合は次のようになる。
最後にロクリアスケールで考えてみよう。シ、レ、ファの3和音の上にラが乗っかってBm7♭5ができあがる。その上にドが♭9thとして、ミが11thとして、ソが♭13thとして乗っかる。ここで、ドの音がアボイドノートとなる。
 なお、アボイドノートはコード構成音と♭9thの関係にある音なのだが、もっと簡単な判断の方法がある。そのノン・コードトーンをオクターブを直してみてコード構成音から上方に半音どなりになっていればアボイドノートであり、下に半音どなりになっていればテンションであるという見極め方だ。

 
 さて、ここからがスケールを使った高度な作曲、アドリブになる。Cメジャーの曲で伴奏者がCの和音を弾いている場合、普通はCのイオニアスケール(つまりハ長調の長音階)でメロディを取るのだが、リディアスケールを使ってもOKということにある。いや、もっと言ってしまえば、リディアスケールのほうがアボイドノートが無いのでデタラメに弾いてしまっても不協和音が生じることは無い。つまり音痴、ヘタクソとは取られない...かも知れない。ここでファの♯がなぜアボイドノートにならないのかをもう一度考えて欲しい。確かに構成音のソとは半音関係にはなるが、その音程はM7thであって、♭9thではない。そのために同じ半音という不安定さでも容認できるようだ。実際に演奏をプレイバックしてリディアスケールの特徴を確認してみよう。
他にもイ短調の曲で伴奏がAmの和音を弾いている場合、普通はAのエオリアスケール(つまりイ短調の短音階)でメロディを取るのだが、ドリアスケールを使ってもOKである。実際に演奏をプレイバックしてドリアスケールの雰囲気を味わって欲しい。
 

 
 ではモードとスケールの違いは何なのだろうか。モードはそのスケールを使って表現される雰囲気のことであり、クラシックが作り上げた機能和声、カデンツを否定するものだと思っていいだろう。モードの曲ではコード進行と呼ばれるものはほとんどなく、ワンコードの上に様々なメロディをのせてその横の流れから独特の雰囲気を漂わせるのが目的だ。そしてモードの決定的な特徴が、アボイドノートなのだ。機能和声の中では、その響きを崩す、不協和であるとして片付けられてしまう音が、モードを活用する場合は、逆に特徴音として強調するべき音に変わってしまう。だからモードで曲を作るという場合はこの特徴音を強調しなければ意味が無いのだ。当然ながら他の楽器は通常の3和音や4和音を弾いたら不自然な演奏になってしまうので、最低限の音しか添えない。だからモードを使うということはT S D Tのカデンツを使わないということになるので、作曲を勉強していた人にとっては面食らうことになるだろうね。
 

 
 では、上の事柄を習得したら、実際はどう使えばいいのか。一般的に好感を持たれる楽曲を作ろうとしたら、モード的な使い方としては長時間は持たない。人間は大抵は長音階か短音階の世界に浸りたい、戻りたいという潜在的な欲求を持っているものだから、イントロやソロ部分、エンディングのアドリブなどにさりげなく短めに使うといいだろう。ほんのわずかな隠し味のようなものだが、それが自由自在にできるかできないかでは、作曲、アレンジの腕前はかなり差が出ると思う。
 たとえばDeep PurpleのBURNという曲がある。ライブでは有名なリフを弾き始める前に、よくリッチーがクリーントーンで遊び弾きをするのだが、Made in Europaでは次の譜例のように弾いている。Deep PurpleはハーモニックマイナーP5thビローをうまく使っていたバンドだ。なぜDeep Purpleがあんなに売れたのか。あのバンドは聴衆を焦らすのがとても上手いバンドだったのだ。そして焦らす時にこんな雰囲気のフレーズをよく演奏している。参考になるかな?
 

(2008年6月25日)